ACアダプタ改造


なぜ改造?

 ブロードバンドルーターなるものを使っているが、このACアダプタが結構でかい。
 写真の手前が付属ACアダプタ、向こう側が秋月通商(以下秋月)で売っているスイッチング式のACアダプタ。
 大きさの違いがわかると思う。
 ちなみに一番手前のは15cmの定規である。

 それにこの手のACアダプタはそれほど効率がよくないので電力的にも損である。
 事実、ACアダプタからはかなりの熱を出している。
 24時間電源を入れておくものであれば、消費電力にも注意したいところである。
 そんなわけで、スイッチング式のACアダプタにしようと思ったのだが、このルーターの電源は7.5Vなので秋月の品揃えには存在しないのである。
 これは困った。
 しかし、品揃えとしては同じシリーズで5Vと9Vが存在するので、7.5Vもできないことはないと思う。
 そんなわけで、7.5Vの出力を得るために改造を行なったのである。

 決まり文句だが、この記事を見て改造をしようと思いたった人、すべては自己責任で行い、壊れたり事故がおこったりしても私や秋月に苦情を言ってはいけない。
 自分の失敗を他人のせいにするような人は、そもそもこういうことをやってはいけないのである。

 ちなみに、このACアダプタは秋月の密かなヒット商品らしい。
 秋月は通販もやっているので、地方の人でも入手は可能である。

とりあえず分解

 何はともあれバラしてみる。
 ACアダプタの両側に「ここを持ってくれ」という感じで溝が刻んであるところがある。
 ここにマイナスドライバを突っ込んでやることで開けることができる。
 で、出てきた中身がこれ。
 非常にコンパクトにまとまっている。
 ネジなど一切使用せず、ぎりぎりの大きさで作られているのである。


 左が部品面、右が半田面である。
 妙にでかいヒューズがついているが、これは私があとからつけたもの。
 実はこいつはいきなり出力が出なくなった(つまり壊れた)やつで、もともとはこいつを直そうとしてはじめたことだったのである。
 壊れたのは一次側のスイッチングトランジスタとヒューズだというのはわかったのだが、手元にあるトランジスタをつけただけでは復活してくれなかった。
 面倒なので修理はあきらめ、今回の目的のための屍となってもらった。

回路図


 二次側の回路図はこんな感じ。
 あちこち省略しているので正確なものではないが、だいたいは合っている。
 教科書にも載っているような、基本的なスイッチング電源の出力回路である。
 (などと偉そうに書いているが、電源のことはよくわからない(笑))

 ポイントはLM431である。
 これはシャント型の基準電圧ICと呼ばれるもの(だったよなぁ)で、基準電圧が必要なときに使用される割と有名なものである。
 電圧可変型のツェナダイオードと思ってもらえればよいだろう。

 普通のツェナダイオードは、所定の電圧以上になるとアノードとカソード間が導通状態になって電圧をドロップさせることで電圧を一定にするのに対し、このLM431はアノードとRef間の電圧が2.5V以上になるとアノードとカソード間が導通状態になるというもの。

 つまり、+OUTの電圧が高くなるとRAとRBで分圧されたRefの電圧も上がり、その電圧が2.5V以上になるとLM431のKからAに電流が流れ、IC2のフォトカプラを通して一次側に制御が行き、これ以上電圧をあげないように働くのである。
 要は、このRAとRBの比を変えてあげれば最低2.5Vから任意の電圧(実はこのACアダプタでは最高で16V付近が限界となっている)まで好きな電圧が取り出せることとなる。
 計算式は回路図の中に書いてあるとおり。

 けど、なんでカソードってスペルがCathodeなのにKと書くんだろう。
 ひょっとしてダイオードのカソード側のマークがKに似ていて、アノード側はAに似ているからか?(笑)。
 日本固有なのかなぁ?。

改造

 改造する抵抗はこれ。R11とR10である。
 先程の基板の半田面の写真で、赤く囲ってある辺り。

 1201と4641の文字が見える。
 これは、120×10E1と464×10E1ということで、1.2KΩと4.64KΩということである。
 それなりに精度のいい抵抗を使っているようだ。
 これを式にあてはめると、VOUT=(1+4.64K/1.2K)×2.5=12.17Vとなり、確かに12V出力のものであることと一致する。
 また、RAとRBに流れる電流は12V/(4.64K+1.2K)=2mAに設定されているようだ。
 詳細はLM431のデータシートを見る必要があるが、ここから大幅にずれなければ問題はないだろう。

 で、本来の目的である7.5V出力であるが、4.64KΩを2.4KΩにしてあげればよい。
 だいたい電源というのはやや高めに設定するのが普通なんで、ちょうどよい抵抗がない場合には高めになる方向にしておけばいい。
 今回はありあわせの抵抗を重ねて(並列にして)作ったので7.6Vとなったが、とりあえずベストなところだろう。
 このACアダプタは約10Wの出力が取れるので7.5Vの場合は1.3Aとなり、充分ルーター付属の7.5V1Aの電源の代わりとして使えることとなる。
 だからといって、2.5Vなら4A取れるのかというとちょっと謎だが。

 実際に使ってみると、ACアダプタからの発熱もほとんどないので、付属のアダプタに比べて無駄な電力を消費していないことが実感できる。

 当然ではあるが、この抵抗値は製品の設定電圧により異なっている。
 ひょっとしたら同じ電圧のものでもロットによって異なっている可能性もあるかもしれない。
 そんなわけで、抵抗の計算は中を見てから各自で行なってほしい。

 最近では3Vとか3.3Vとかの回路よく使われているので、それらの実験用に改造しておくというのも手かもしれない。
 ハンディGPSのeTrexも3Vなので、一つ用意しておくと室内でのデータ整理用に重宝するかもしれない。

 この抵抗を半固定にして、任意電圧出力の実験用電源というのもおもしろいかも。
 気の効いた保護回路とかついてないんで使うときには注意が必要だが、ちょっとした実験用には便利だろう。

 ふっ、今回も勝利したぜ。

2005/11/06 追記

 先日、会社で上記の改造を行なう羽目になった。
 やるのは私ではないし、やらせたのも私ではない。私は単にこの時の経験からアドバイスをしただけ。
 某上司が9V用のが必要なのに間違って5V用を頼んでしまったのが事の発端。

 で、分解の仕方から抵抗の計算方法までアドバイスをしたのだが、なぜか出力が出ない。
 原因はツェナーダイオードがショートしていたこと。こいつをはずしたらなおったのである。
 私が改造したものは12V用で16Vのツェナーダイオードがついていた。
 ひょっとすると5V用のやつは9Vより低い電圧のツェナーダイオードがついているのかもしれない。ツェナー電圧を確認しようと思ったが、既にショートしていたので確認できず。
 ということで、低い電圧から高い電圧に改造する場合は注意が必要らしい。

 ひょっとすると、上記の壊れたやつというのもこの辺が原因だったのかもしれない。
 ほんのちょっと前に捨ててしまったんだよなぁ・・・。惜しいことをした。

表紙へ