ツーリングボックス

 車を持っていない私は、スーパーに食料の買い出しにオートバイで背負い袋を背負って行く。
 私の乗っているバイクは、わりとしっかりとしたキャリア(荷台のこと)がついているのだが、さすがにつぶれやすい食料品を荷台に縛りつけて走り回るのには抵抗がある。

 今まではちょっとした荷物があるときにはフックで簡単にキャリアに取り付けることができるリアバッグを愛用していたのだが、駅の近くに停めておいたら盗まれてしまった。あんな安物&使い古しのを盗むやつがいるとは信じられなかったが。
 実はバッグよりも中に入っていたグローブとカッパのほうが惜しかった。

 ときおり街中で、オートバイの後ろにボックスを積んでいるのを見かけることがあると思う。
 大きいバイクではいかにも高級そうな「キーつき取りはずし可能ホテルにも平気で持って入れる」型のをつけている人がいる。
 もっと身近な例ではオートバイ急便とかプレスライダーのつけている箱、おじさんのスーパーカブについているなんだかよくわからない箱、おばさんのスクーターのキャリアについているほんのちょっとだけおしゃれっぽそうな箱。

 ある日、ディスカウントスーパーの前で、オフロードバイクから降りるや否や荷台につけたボックスにヘルメットを放り込み、スーパーに入っていく人を見かけた。
 そうだ、荷台に箱を取り付けよう。それも割りと簡単に取りはずし可能にして。
 最近はツーリングに行くにもその辺のディスカウントスーパーで買った箱を荷台に縛りつけて行くのがはやっているではないか。
 前からこの箱には興味を持っていたが、取り付けるいい方法が思い浮かばなかった。しかし、今ならその方法があるではないか。
 

 まず、材料をそろえる。
 今まで作った荷物固定用ベルト&フック、その辺のDIYショップなどで売っている適当な箱。
 それと例によってアルミ板。
 幅50mm、厚さ1.5mmのものと幅25mm、厚さ3mmのやつ。
 これ以上厚くてもあまり意味は無いと思う。むしろ、もう少し薄いほうがいいような気がする。
 厚さ3mmの方はねじ止め用のタップを掘るので、あまり薄いとねじ山が弱くなる。私はタップを掘るのが下手なのでちょっと厚めにしておいた。

 この板を写真のように加工する。
 左が厚さ1.5mmの板で作ったもの。30×50で、写真の上側と下側の穴の直径は4.5mm、ピッチは40mm。
 中央が厚さ3mmの板で作ったもの。25×10で、左右の穴の直径は4.5mm、ピッチは20mm。
 右も厚さ3mmの板で作ったもの。25×50で作ったつもりがやや長くなってしまった。しかし、穴のピッチさえ合っていれば問題ない。
 穴は3.5mmの下穴を開けてM4のタップを掘っておく。
 結果から言うと、ねじはM3のものを使用して板厚を薄くしたほうがよかったかもしれない。

 この組み合わせで固定する数だけ作るのである。今回は4ヶ所で固定しているので4組作った。
 自宅にも安物の電動ドリルや金ノコはあるのだが、やはり会社の工作機械のほうが楽でいい。こういうところが会社を選ぶポイントであろう。

 穴を開ける場合の一番のポイントは、板に穴を開ける場所をマーキング(けがき針で線を引く)したあとにポンチを打つことである。このポンチの位置で穴位置の精度が決まるといっても過言ではない。
 ちなみに私はポンチ打ちも下手だ。

 ボックスの内側に1.5mm厚の板をあてる。これは箱の樹脂が弱いため、ねじの頭だけで締めつけると、箱が壊れたり穴が広がってねじがすっぽ抜けたりする可能性があるため。
 大きいワッシャーが手に入るようであればこの板はいらない。念のため、ワッシャーを必要枚数買うよりもアルミ板のほうが安かったことをつけ加えておく。
 お金を出すか労働力を出すかの選択である。趣味に費やす労働力はただである。

 下の写真の左が箱の内側、右が外側。

 ボックスの外側にベルトを通す隙間を作るために小さい板を挟み、内側からねじ止めをする。
 外側からねじ止めをした方がかっこいいのだが、ねじが中に出っ張ると荷物を傷つけそうなのであえて内側からにした。それに、外からはずせないというのもポイント。
 より完璧を求める人は、箱とアルミ板の間に弾力のある接着剤を塗っておくと、防水性とか強度とかも増してよいかも。お奨めはセメダインのスーパーX、コニシボンドのサイレックスなどの弾性エポキシ系接着剤。

 この金具にこんな感じでナイロンベルトを通し、バックルを取り付ける。
 本当はバックルとベルトを縫いつけたいところなのだが、他の箱にも流用する予定なので取りはずしできるようにしておいた。

 もう少しベルトを長めにしたほうが内側にも余分なベルトが長めにでるので引っ張っても抜ける心配が少ないのだが、このくらいだとちょっと不安かも。
 現に一ヶ所外れかかっていたことがあるので、時々点検する必要がある。
 ベルトをけちってはいけないということだ。
 あとは前回作ったフックを使って固定するだけ。
 
 

 固定した状態はこんな感じ。

 個人的にはそこそこいいできだと思っているが、やっぱり安っぽく見えるのだろうな(笑)。
 でも、連休なんかでこの箱をつけて幹線道を走っていると、皆さんツーリングと勘違いするようで結構ピースサインをもらったりする。ちょっと嬉しい

 意外としっかり固定できるようで、高速道路を300kmほど走ってもゆるんだり落ちたりしなかった。
 もっとも4ヶ所で固定しているので、一ヶ所くらいはずれてもごまかして走れる。
 大きいボックスのときには、さらに左右もベルトで固定することでよりしっかり固定できるだろう。
 

 さて、簡単に取りはずしできるのはいいのだけど、これは一方では簡単に盗めるということにつながる。
 材料代はたいしたことがないのだが、作るのにかかった手間暇は結構惜しい。それなりに苦労したものには愛着があるのだ。
 で、ふたのところにドリルで穴を開け、両端にわっかを作ったステンレスワイヤーを通して南京錠でロックするという手を考えた。その後、穴を拡げて直接南京錠を穴に通す方法に変更した。さらに穴の回りはアルミ板で補強をした。そのほうが強力そうにみえる。
 さらにもう一本長めのワイヤーを作り、キャリアやヘルメットホルダーなどに通してから南京錠で一緒にロックしておけば、箱ごと盗まれることも少なくなると思う。
 安っぽく見えるだけに、箱を盗もうという人はそんなにいないと思うが、使い古したリアバッグを盗まれたことがあるので油断は禁物である。

 ステンレスワイヤーといってもニッパーで簡単に切れるし、材料がプラスチックなのでその気になればなんとでもできるが、やはり「いちおう鍵をしています。ちょっと盗みにくいよ」みたいなアピールが大事だと思う。
 したがって、ワイヤーももっと太いものを使用してその存在をアピールしたほうがよいだろう。

 買い物なんかに行くときにこの箱をつけていくとかなり便利である。
 米やバイクのパーツなどの重いものを買っても自分がかつぐわけじゃないので全然重さを気にしないですむ。
 ただし、中に隙間があるので軽い荷物だと踊ってしまうのが難点。
 この点に関しては、ツーリングネットを中に入れておくと衝撃吸収材になるのでかなりよい感じである。本来であれば内部にフックをつけてツーリングネットで押さえたいところだが、容量が減るうえに荷物に傷がつきそうなのと、何よりも面倒なのでやめた。
 ツーリングネットは、荷物が箱一杯になったときにさらに箱の上に軽いものを積むのに便利である。ツーリング先の買い出しに威力を発揮するだろう。
 

 ちなみに、この箱を選びだすまでに何種類かの箱を買い集めてしまった。
 左上が最初に買った箱。
 箱本体とふたの隙間が結構あり、高速で雨に降られた場合、中に水が吹き込むことが予想できたので使用を断念。
 左中央が今回の犠牲となった箱。しかし、ヘルメットを入れるにはほんのちょっと高さが足りなかったので右側のシリーズも買い足した。
 下の箱はかなり容量があるので、長距離ツーリングのキャンプ用品一式を入れることができる。
 見かけは右下のほうがよいのだが、箱の下のほうが狭くなっているために見かけほどの容量はない。それとプラスチックの厚さが薄めなのが気になる。
 容量であれば左下のが圧倒的に多い。
 ただし、右側のシリーズはふたが丈夫で椅子代わりになるのでどちらも一長一短である。

 これだけの箱が部屋の中にあると、狭い部屋がいっそう狭くなってしまうのが難点。かといって荷物のかたづけに使ってしまうとかんじんのツーリングに使うのが億劫になるし・・・。さて困った。
 

 なお、自作トランクの製作方法(中屋氏のページ)にも似たような工作が紹介されており、さらに似たようなことをしている人達のリンクがあるので、参考にするとよいかも。
 
 

その後のツーリングボックス

 私の乗っているジェベル250XCというバイクは、標準で割としっかりとしたキャリアがついており、キャリアとシートとの段差も少なくなっているので荷物の積載はそれほど苦手ではない。
 しかしながら、キャリアの前側とシートの間に段差があるために、大きめのボックスなどを今回の方法で積むと、写真のようにキャリアのフレームを支点にして前下がり・後ろ上がりとなってしまう。
 前のベルトを緩めるとこの現象はなくなるのだが、それだと今度はボックス自体の固定が甘くなる。
 さらに、この支点部分に力が集中するために、強度の問題も出そうである。
 理想は強度があるボックスの底面の周辺に主な荷重がかかり、残りの荷重は低面部全体に均一にかかることである。

 そのためにはどうすればいいのか。
 答えは簡単である。
 その段差をなくせばいいだけのこと。

 具体的には、幅10cm、厚さ2cm、長さ20cmほどの木片を入手して下に敷けばいいのである。
 この位の木片であれば、どこで買ってもそんなに高くはない。
 ちょうどいい大きさのが売っていなかった場合は、大きめのを買ってきて自分でのこぎりで切ればいいのだ。
 厚みだけはカンナがけが必要となって辛いだろうから、目的の厚みに合ったものを買ったほうがよい。
 長さは、キャリアの内幅に合わせて現物合わせがベスト。

 ついでに厚さ1mmのゴムシートを買ってきて、木片の幅より2〜3cm多めに切り、接着剤でも両面テープでもいいので適当に貼りつけておく。
 そして、ゴムシートがキャリアのパイプを上下から挟むようにして木片を置く。
 こうすることで、走行中の木片のずれを最小限に抑さえられるはずである。

 取り付けるとこんな感じになる。

 実にぴったりフィットしている。
 この加工?を施すことでジェベルのキャリアはボックスとの相性が最高となる。
 もちろんボックスだけではなく、通常の荷物をゴムロープで固定する場合にも安定性がよくなるだろう。

 ついでに以前からの課題である盗難防止策。
 まず、ふたを開けられて中身を持っていかれないようにするための対策。
 ボックスのふたにアルミ板を接着し、穴をあけて南京錠でロックする。
 これならプラスチックのままのときよりはるかに壊しにくい。
 アルミ板も、面で接着されているのでちゃんと接着されていれば非常にはがしにくいのである。
 が、プラスチックの表面は接着材がはがれやすいので、時々注意する必要がある。
 (現在はアルミ板にタップを切って裏からネジで固定している)

 次に、ボックス自体を持っていかれないようにする対策。
 φ2mmくらいのステンレスワイヤーの両端をわっかにしたものを用意し、片方はキャリアやヘルメットホルダーに、もう片方は南京錠でロックしておくことでボックス自体をバイクから離せないようにしておく。
 ステンレスワイヤーは、工具があれば簡単に切ることができるのだが、どちらかというと視覚的効果を重要視するために、太めの物を使用するとよいように思える。
 本当に切れにくいワイヤーを使うのがベストではあるが。
 ちなみに、わっかの製作に必要なアルミパイプの加工は、本来は専用の工具を使うのだが、今回は万力様のお力をお借りした。

 写真で気付いた人もいると思うが、いつの間にやら巷で評判のRVボックスを使っていたりする(笑)。
 

 まだ実現はしていないが、ひもを引っ張ると鳴るタイプの護身用アラームとか、磁石がスイッチになっていて、ドアなどに取り付けるアラームなんかを木片とセットで仕込むと完璧のように思える。
 なかなか安くて使いやすそうなのが見つからないのが問題なのだが。
 なにしろボックス本体よりもアラームのほうが高いのである(笑)。
 

さらにその後

 ボックスということで、その欠点として中身が少ないと中の荷物がおどってしまうということは最初からわかっていたことだが、やはり日帰りの荷物が少ない状態で未舗装路なんかを走ると、後ろがらゴトゴトと音がしてあまり気分がよくない。
 以前にも
 》本来であれば内部にフックをつけてツーリングネットで押さえたいところだが、
 と書いたが、フックは邪魔になるし荷物が痛むかもしれない。
 そんなわけで、別の方法を考えてみた。

 材料は例によってアルミ板とナイロンベルトで、作り方は上のほうに書いたのとほとんど同じ。
 つまり、ボックスの中にもベルトを通してそれで荷物を固定しようというもの。
 今回は幅15mm、厚さ2mmの板を使った。
 ボックスの外側にも今までと同様にワッシャー代わりに1.5mm厚の板をあてる。

 今回は板の幅が狭いので、固定用のねじは左右1ヶ所ずつ。
 ねじ一本だけだとベルトを通す隙間を作っている板が回ってしまうので、接着材で固定して重ねた状態でタップを切った。
 荷物へのダメージを減らすため、エッジはできるかぎり丸めておく。
 また、下側のベルトがこするところも丸めておいたほうがいいだろう。
 あまりすべりがよくないほうがずれにくいような気がするので、ツルツルに磨くまではしなかった。
 単に面倒だっただけともいうが。

 できあがりは写真のような感じ。
 この金具をボックス内部の前と後ろの2ヶ所につけ、ベルトで荷物を押さえる。
 大きいボックスであれば、前後4ヶ所で2本のベルトを使ったほうがいいだろう。
 

さらにさらにその後

 ふたを開けたときにふたをどこに置くかは結構問題である。
 今までは箱本体とふたに穴を開けて何ヶ所かにタイラップを通して蝶番のように使っていた。
 しかし、これだとふたをはずすことができなくなるうえに、刃物で簡単に切ることができるために盗難防止としてはやや弱い。
 そんなわけで、普通の蝶番をつけてみた。
蝶番1蝶番2

 これは蝶番の二つの部品が独立していてはずせるようになっているもの。
 樹脂に直接ビス止めすると樹脂が破けてしまうので、いつものアルミ板と蝶番で樹脂を挟みこむようにしてとりつけた。
 箱とふたのヘリの部分は厚くなっているために、そこを削らないとうまく取り付けできないため、その加工にやや時間を要するが、使ってみた感じはかなりいい。

 おなじみRVボックスはもともと蝶番の構造となっているが、使っているうちにゆるくなってきてふたを開けた際にすぐに外れてしまうようになった。
 で、ある日落とした際にこの部分を壊してしまったので、上記蝶番を使って修理を行なった。
 結果、こちらもなかなか調子がいい。
 手間はかかるがお奨めの箱改造である。

 けど、こんなことやっていると箱が壊れた際に代わりの箱を同じようにセッティングするのに手間がかかるんだよなぁ(笑)。

番外編 自作キャリア

 ボックスに限らず、荷物を積むにはキャリアがあったほうがいい。
 しかし、オートバイ用のキャリアは純正でも社外品でも1万円以上する。
 ならば作ればいいということで、ネタ提供者である友人のhilo氏はツーリング直前になって急遽キャリアを自作した。
 材料を聞いて、最初はダートを走ったらもげ落ちると思っていたのだが、ツーリング中にもしっかりとついていて、どこかの山に奉納してしまうような雰囲気はなかった。
 そのキャリアの根性を称えてここに紹介する事とした。
 左が全体の様子。
 やや後ろ下がりだが、これは愛敬というところか。
 高さはシートとほとんどフラットなので、積載性も悪くない。
 大きな荷物を積むには幅がやや狭いが、フェンダーと同じくらいの幅なので見た目がすっきりしているし、荷物を積まないときでも邪魔にならないので、たまにしか荷物を積まない人にはスマートでいいかも。

 サイドカバーの中のフレームで片側2ヶ所(だったと思う)とテールランプの1ヶ所の合計5ヶ所のボルトで固定されているが、残念なことにシートレールはテールランプのところまでは伸びていない。
 ここまで伸びていれば強度的にはほとんど問題は無いと思える。
 しかし、hilo氏の荷物はなぜか私等のより遥かに少ないのと、前の方の固定が強力なので、全く問題はないようである。

 さて、材料なのだが、キャリア本体はどこかで見たことがあると思うだろうが、なんと自転車用のやつ。
 そこにステー(アングル材)を現物に合わせて加工し、溶接している。
 見た目ほど手間もかかっていないらしい。
 材料費は塗装の缶スプレーまで入れて3,000円くらいだったとのこと。
 純正のキャリアよりはるかに安く、はるかにフィットしている。

 アィディアと作業環境、それとやる気があればこういうのもできてしまうというよい見本である。
 残念なことに私は溶接の道具を持っていないし、会社にも無いのでここまでの工作はできない。
 いつかは溶接もできるようになりたいとは思っているのだが、ホームセンターで売られている溶接機は意外と根性が無いらしいし、それ以上にうちのブレーカーの根性がないようである。

 会社を選ぶ際、ネームバリューや会社規模や給料ではなく、自分の趣味に使える道具と、それを自由に使える環境があるかどうかというのをチェックするのは会社にいる時間今後の人生に大きく影響する。
 このように、会社選びというのは非常に大切なのである。

 まぁ、給料のいい会社に入って自分のうちに工作室を作るというのも手であるが(笑)。
 家を建てることがあったら、書斎なんかよりも工作室のほうが欲しいと思う私である。

 後日談:家は手に入れたけど、建売りだったので工作室の夢は儚く消えさってしまった・・・
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