フロントサスペンションのオイル交換

 

前置き

 私のジェベルも走行距離が35,000kmを越えた。
 昔、暇さえあれば河川敷を走り回っていた頃はもっとまめにメンテをしていたのだが、今は必要最低限のメンテしかしていない。
 そんなわけで、フロントサスペンションのオイルも全然替えていない。
 カートリッジ式のサスペンションということで、サービスマニュアルを見ても従来のものとは少し手順が違うようにみえる。
 とにかくやってみないことにはしょうがないというわけで、作業開始。

フォークをはずす

 左の写真は、アッパブラケット(フォークを固定している三つ叉の上のほうのパーツ)を締めているねじ(アッパクランプボルト)の付近を、クラッチレバーの下から見たものである。
 フォークの上にフォークキャップ(でかい六角のボルトがついたふた)が見える。
 通常は、まず最初にこのキャップを緩める。
 フォークをはずしてしまってからだと緩めるのが大変なので、最初に緩めておくのである。
 で、このフォークキャップを緩めるためには、アッパクランプボルトを緩めておく。
 これが締まっていると、キャップのねじがまわりから締めつけられていることになり、はずすのによけいな力がいるのである。
 つまり、アッパクランプボルト、フォークキャップの順に緩めるのである。

 が、見てわかるように、このキャップの回りには工具が入る隙間がない
 特に左側。
 キャップのすぐ上にメインキーのシリンダーがあるのだ。
 そんなわけで、ちょっと順番を変更してフロントフォークについているものをはずすことにする。

 まずはブレーキを固定しているねじを緩めておいてからタイヤをはずす。
 右のフォークのホイールのシャフトを止めているナットは、下側の2本を緩めてから上の2本を緩め、それからシャフトをレンチで回しながら抜く。
 サービスマニュアルによると、取り付けるときは上の2本のナットを締めてからシャフトをねじこみ、最後に下の2本を締めるとのこと。

 ブレーキをはずす。
 ブレーキホースをフォークに固定しているねじをはずす。
 フォークについているスピードメーターケーブルのガイドもはずす。
 このガイドは、変わったつけ方になっているので、どのようについていたかをよく覚えておかないと、あとで悩むことになる。ホント。
 なんでもいいからフォークと車体の間にあるものをはずす。
 とにかくはずす。
 有無をいわさずはずす。
 と、気合を入れるほどはずすものは多くはないのだが(笑)。
 忘れてはいけないヘッドライトガードをフォークに固定しているバンド。
 これは緩めるだけでいい。

 これでフォークが抜ける状態になった。
 そうそう、ねじをはずすときは、どのくらいの力ではずしたのかを覚えておくとよい。
 トルクレンチを使ってきっちりトルク管理をするのであればいいのだが、ねじのサイズや使用箇所と締める力の関係を、体感で覚えておくのも悪いことではない。
 

 アッパークランプボルトとロアーブラケット(下のほうの三つ叉)のロアークランプボルト(要は下のほうのねじ)を緩める。
 このボルトは、緩めるときも締めるときも、2つを少しずつ交互に回してあげる。
 めったにないことだが、緩めたとたんにフォークが抜け落ちないように注意する。

 普通はここでフォークを抜いてしまうのだが、まだキャップを緩めていない。
 そこで、ライトガードの取り付け部のやや上くらいにキャップがくるようにしてロアークランプボルトを締めつけ、フォークを固定する。
 あまりきつく締めつける必要はない。
 キャップを回すときに、フォークが一緒に回らない程度で充分。

 写真ではフォークが垂直になるように撮っているので、なんとなく違和感があるが、キャップにメガネレンチを当てているのがわかると思う。
 こんな感じでフォークキャップを緩めておく。
 意外と簡単にあっけなく緩む。
 つまり、それほどきつく締めつけてはいないということだ。

 再びロアークランプボルトを緩めてフォークを完全に抜き去る。
 フォークが外れたら、ダストブーツ(ゴムのじゃばらのやつ)をとめているバンドを緩め、ブーツをはずす。

オイルを抜く

 いよいよキャップをはずす。
 従来のサスペンションだと、キャップが抜ける際にスプリングの力でキャップが飛びだし、そのときにねじ山を傷つけることがあったので、上からキャップを押してスプリングを縮めつつ緩めたのだが、どうやらそんな心配はいらないようである。
 キャップが飛びだすこともなく、あっけなく外れる。
 はずした状態はこんな感じ。
 なんのことはない、キャップはロッドにくっついているので飛びだす心配はないうえに、フォークをのばした状態だとスプリングもほとんどのびきっているのである。

 つぎに、ロッドとキャップを固定しているナットを緩める。
 これは、キャップにロッドがねじ込まれているのだが、ロッド自体は円柱なのできつく締めこむことができない。
 そのロッドが緩んで抜けないように締めつけてあるナットである。
 つまり、ダブルナットの構造である。
 私のは低車高仕様なので、キャップのすぐ下にこのナットがあるが、標準車高仕様の場合はこの間にジョイントが存在する。
 マニュアルの写真によると、ジョイントの下の方のナットを緩めているようだ。
 ここだけはメガネレンチが使えない。数少ないスパナの出番である。

 キャップをはずしたら、スプリングリテーナー(先程のナットに引っ掛かっている、スプリングが抜けないようにしている板)をはずす。
 これは、スプリングを手で縮めながらやると簡単に取れる。
 スプリングを縮めずに無理やりはずそうとすると、スプリングが飛びだしたりする。
 これでスプリングが外れるようになったので、そのままスプリングを抜いてしまう。
 慌てて抜くと、スプリングについたオイルで油まみれになるので注意が必要。

 このままゆっくりとフォークを傾けてオイルを抜く。
 ある程度抜けたらフォークを数回ストロークさせ、さらに抜く。
 フォークをのばしきると、インナーチューブの先端付近のくびれているところまで出てきて、そのくびれとオイルシールの間からオイルがこぼれ出てくるので、服などにかかるのがいやな人は注意する。
 あとはそのまま逆さにしてオイルが出おわるまで2〜3分待つ。
 この待ち時間を利用して、もう一方のフォークもはずしてオイルを抜く。

 出てきたオイルは、もっとドロドロとネズミ色になってしまったものを想像していたが、汚れた深緑であった。
 元の色が緑だったとわかる程度なので、35,000km走った割には汚れていないと見てもいいだろう。

 オイルの処理として、オイルを吸収するタイプの廃油処理用品を使ったが、これは中がゴミくずみたいなので、そのままフォークを立てておくとクズがスプリングやらインナーチューブの内側やらにくっつくので、それを取り忘れるとオイル経路をふさいで大変なこととなる。
 この予防として、オイル吸収材の表面にボロ布を一枚ひいておくとよい。

 ここで、フォークの先端にあるセンタボルト(減衰力調整用のアジャスタのついているやつ)をはずすと、完全にフォークが分解できるらしいのだが、シールやブッシュ類を交換する予定はないのでそこまではバラさない。決して面倒だからという理由ではない。
 ばらして古いオイルを完全に落とし、シール類を替えてやると気分もいいのだが。

オイルを入れる

 さて、オイルである。
 純正指定のSHOWAのオイルは非常に高価だったので、YAMAHAの一番柔らかいサスペンションオイル、G5を買ってきた。
 1缶1リットル入りなので、本来は2缶必要なのだが、G10とかG15の古〜いやつが手元にあったので、足りない分はそれを補充する。

イチゴシロップ(笑)

 なぜか持っている500ccのビーカーに、方側538ccずつのオイルを入れておく。
 ちなみに量は目分量でアバウトである。
 左右で極端な差がなければよしとする。私程度の腕じゃどうせわかりはしないのだ。
 写真を見ると、どうも550ccくらい入れたようだが細かいことは気にしない(笑)。

 せっかくなのでスプリング長も計っておく。
 使用限度は464.2mmとのことだが、ぎりぎり範囲内である。
 片方がやや長かったが、たいした事じゃないので見なかったことにする。

 オイルを入れる前に、ちょっと小細工を。
 フォークの中にあるロッドであるが、これは手を離すと奥にもぐっていく。
 引っ張り出すのは簡単なのだが、オイルを入れた後だとそれもやりにくくなる。
 何よりも、スプリングを入れた後だとこのロッド自体に指が届かなくなるのである。
 そこで、スプリングより十分長いくらいのコード(いわゆる電線)をしばりつけておく。
 引っ張ってもほどけず、かつ、簡単にはずせるようなしばり方が重要である。
 スプリングを入れるときには、スプリングの中にこのコードを通してあげるのである。

 ロッドを引き上げながらゆっくりとオイルを入れる。
 ほとんどインナーチューブの上ぎりぎりくらいまで来るはずである。
 ロッドを上下させ、オイルを奥まで送りこむ。
 ぼこぼこと泡が出てくるとともに、オイルの高さもだんだん低くなっていき、オイルが奥に入っていくのが実感できる。
 しばらくロッドで遊んだあと、フォークを立てた状態で10分ほどおき、オイルレベルが安定するのを待つ。
 スプリングはまだ入れないように。
 この間に、もう一方のフォークの作業も進めておく。

 オイルレベルの調整であるが、フォークを縮めて垂直にした状態で上端から135mmの位置にオイルの表面が来ていればいい。
 やや多いような気がしたが、左右同じくらいだったので無視して組みあげる。
 本来であれば、やや多めにオイルを入れておき、レベルゲージを使って余分なオイルを抜きとってレベルを合わせるのである。

 ちなみに、レベルゲージはシャンプーのボトルについているポンプとそれにつながるサイズのビニールチューブ、そのチューブにはまる直径のパイプで簡単に作ることができる。
 パイプの先端から135mmの位置に割ばしなどを輪ゴムでしばりつけ、インナーチューブに入れてパイプより上のオイルを吸い出すのである。
 洗剤用のポンプよりも、せっけんやシャンプー系のポンプのほうが吐き出し口にもチューブをつけやすいのでお奨めである。
 シャンプーを買う際には、使いやすそうなポンプのついたものを選ぶとよい。
 このポンプは、ブレーキフルードの交換や、入れすぎたエンジンオイルのレベル調整にも使える優れ物である。
 実は、最近は詰めかえ用のパッケージを買っているので、手元にポンプがなかったのである。

組みあげる

 あとは逆の手順で組みつけるだけであるが、ついでなのでフォークキャップをつけた時点でインナーチューブに錆取り剤を塗り、軽く錆落としをする。
 錆取り剤は、ファクトリーミルウォーキーから出ている花さかGラストリムーバーがよいとのこと。
 やや高いが、酸で金属を溶かして錆を浮かせるものとは違うので安心して使える。
 錆取り剤が錆を浮かしている間、しばし休憩。
 インスタントラーメンで腹ごしらえをするもよし、チェーンやワイヤー類にオイルをくれてやるのもよし。
 私は面倒なのでやらなかったが、ブーツをきれいに洗うととても気分がよい。
 休憩が終わったらフォークをぼろキレで拭き、多少なりとも汚れを落としてから組み上げる。

 フォーク上端についているラインが、アッパブラケットの上面に一致するように左右の高さをちゃんと合わせる。
 各ボルトは、一気に締めこまず、少しずつ全体的に締めこんでいく。
 締め込みすぎはよくないらしい。
 そうそう、はずすときと同様、途中で仮どめをしてフォークキャップをちゃんと締め込むのを忘れないように。

 組みあがり状態。まだブーツの上のバンドは固定していない。

 この写真だとわかりにくいが、フォークが妙にきれいである。
 ブーツの汚いのが目立ってしまうので、ちゃんとブーツを洗ったほうがよかったかもしれない。
 新品交換とか社外品に替えるのもおしゃれかも。
 あとはねじの締め忘れがないかをチェックする。
 特に、ホイールやブレーキをはずしたときは、命にかかわるので、必ず工具を使って締めこむ方向に力を加えて確認する。
 ヘッドライトガードを固定しているバンドも忘れやすいので要チェック。

最後に

 サスペンションオイルの交換は、思ったよりも簡単な作業である。
 特殊工具は必要なく、ほとんど車載工具でまかなえる。
 が、ロッドとフォークキャップを止めているナットを緩めるときに使う14mmのスパナ以外はちゃんとしたメガネレンチを使ったほうがいいのは言うまでもない。
 10mm、12mm、24mmのスパナとドライバーがあればできる作業である。
 24mmのレンチはリアタイヤをはずすときに使う物なので、フロント用の19mmと合わせて買っておくとよいだろう。
 写真のレンチは先が曲がっているやつだが、ストレートタイプのほうが使いやすそうである。
 ちなみにツーリング用に買ったレンチはストレートタイプで薄めなので、携帯に便利である。
 って、こいつを使えばよかったのか(笑)。

 標準車高の人、GPS Ver.の人は、多少異なるところがあるので、作業に入る前に RAVEN'S ROOM を参考にするとよいだろう。

 さて、YAMAHAのG5の感触であるが、カートリッジサスペンション用ではないのでやや硬めである。
 しかし、ダンピング調整を目いっぱい柔らかくすると、ノーマルの標準状態より柔らかくなるみたいなので、このオイルでも問題はないと思える。
 一番柔らかくしたら、路面のゴツゴツ感がなくなって非常に乗りごこちがよい。
 オフを走るときにはその場で調整すればよいので、当面は一番柔らかい状態で走ってみることにする。

 実は、YAMAHAのカートリッジサスペンション用のオイルが同じ値段で売られていたのに気付いたのは、G5を買ったあとである。
 これからサスペンションオイルの交換をしたいと思っている人で、高いオイルはちょっと・・・、という人は、こちらを買ったほうがいいだろう。
 多分性能的にも問題はないはずである。

 さあ、思った以上に難易度の低いフロントフォークのメンテ、「やりたいけどちょっと」と思っている人は多いはず。
 恐れることはない。こんなに簡単なのだ。
 どうしても不安な人は、万力様のお力にすがるといいだろう。


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