知恵と勇気のステムベアリング交換

前置き

 私のジェベルXCも走行距離が4万キロを越えた。
 いや、もう既に2〜3年程前から症状は出ていたのだが、ハンドルをわずかに切った時に戻りが悪い。
 引っ掛かるというか、重いという感じ。
 普段街中を走っているとそれほど気にはならないのだが、高速など延々と直進した後だとちょうどベアリングがその位置におさまるのか、症状が顕著になる。

 ツーリング中の未舗装路の下りにこの症状が出ると、非常に気になる。
 上りなどでアクセルを開けられる状況なら気にすることはないのだが、下り、それも速度を落として走っていると妙に気になる。

 そんなわけで、ステムベアリングの交換である。

作業内容

 これがベアリングの箱(笑)の写真。
 上下の交換なので2セットである。
 どう見ても同じ型番なのだが、実は同じ物なのである。
 ついでにベアリング本体とレースがセットになっている。

 昔のバイクは上下ともボールベアリングで、強い負荷に負けてよく痛んだものだが、下側がテーパーローラーベアリングになり、最近のものでは上下ともテーパーローラーベアリングとなっている。
 ボールベアリングほど調整のコツを要求しないので、作業も多少は楽である。
 ボールを落として必死こいて探し回る心配も無いし。

 ということで、ジェベル250XCも上下ともテーパーローラーベアリングである。
 まず、ステムヘッドナットを緩める。
 これは32mmのスパナが必要だが、売っていなかったのでモンキーレンチを使った。
 かなりきつかったので、モンキーの柄にパイプを差し込んで延長してはずしたが、工具メーカーは「こういう使い方はしないで欲しい」と言う忠告を工具につけている。
 この作業は、フロントフォークをはずす前に行なわないと、えらく苦労する。
 経験者の言うことは聞いたほうがいい。
 メーターギア、ブレーキホースを止めているガイド類をはずし、ブレーキユニットをはずす。
 ヘッドライトガードを止めているバンドも忘れずに緩める。
 ついでにヘッドライトの下にあるヘッドライトユニットを止めているねじもはずす。
 タイヤをはずした後にフロントフォークをはずす。
 フロントフェンダーもはずす。
 なんかダチョウみたいでかわいい(笑)。
 ヘッドライトユニットをはずす。
 バルブの後ろのコネクタをはずしてウインカーのコネクタをはずすとヘッドライトユニットが外れる。
 ウィンカーコネクタは左右同じ形状なので、組み付ける時に間違えないようにする。
 緑色の線のほうが右側のウインカーに接続される。
 ヘッドライト回りをはずした状態。
 既にステムヘッドナットが緩んでいるので、ハンドルの向きとステムの向きがずれている。
 なんか妙な感じである。
 ステムヘッドナットをはずすとハンドル回り一式が外れる。
 メーター回りをはずせばきれいな作業になるのだろうが、面倒なのでそのままごっそりとはずした。
 ほうっておくとハンドル一式が下に落ちそうなので、タコ糸でフレームにかけておいた。
 ステアリングナット(外側に溝のあるやつ)をはずすことでステムが外れる。
 はずしたベアリング。
 グリスは決して十分ついているという感じではないし、錆を拾って茶色くなっている。 右側のベアリングは上側のやつ。
 さて、ステムからベアリングをはずすのだが、貫通ドライバーとかタガネではずすという話を聞いていたので一生懸命やってみたが、全然工具がベアリングに引っ掛かってくれず、ベアリングのローラーを押さえている金具が壊れてローラーが外れてしまった。
 どうやってもはずすことができず、いよいよショップに持ちこみという敗北を覚悟していたが、特殊工具の形状がわかればなんとか作れるかもしれないと思い、サービスマニュアルを開く。
 と、そこには驚くべき事実が書かれていたのである。
 先端が−状の鉄棒を使用してはずせ
 どこが特殊工具じゃ。

 タガネでベアリングをはずす。
 ただし、先程とは違い、ベアリングをはずす向きに入れるのではなく、ステムとベアリングの間にくさびを入れて隙間を拡げる方向に打ちこむ。
 可能な限り全周にわたり、少しずつ平均にはずしていく。
 マイナスドライバーを使う場合(当然貫通ドライバー)、先を研いで薄くしておかないとうまく行かないばかりかステムに傷をつける。
 刃の幅は広いほうがステムに傷をつけにくそうである。
 厚さ2〜3mmほどの鉄板を片刃状に削って使うのがよいだろう。

 ある程度はずれてきてステムとの隙間が大きくなったら、ステムをひっくり返した状態で先端方向に向かってタガネを当てて叩いていく。
 この時に、万力様のお力を借りてステムを押さえてもらうとよい。
 マイナスドライバーやタガネでついた傷は出っ張りが無い程度にヤスリで修正する。
 写真のはマイナスドライバーでの傷。
 ちょっとくらい傷がついても走行には支障無いし、見える場所でもないので気にする必要はない。
 せっかくフロント回りをはずしたので、ハンドルストッパーもちょっとだけ削ってみた。
 ジェベルXCのハンドル切れ角にはちょっと不満だったのである。
 左右0.6mmほど削ったが、結果的にはほとんど変わらなかったといってもよい。
 しかし、今までハンドルフルロックでUターンしていたところが余裕で曲がれるようになった。
 左右1.5mm程度まで削ってもよかったかもしれない。
 車体側のレースは、マイナスの貫通ドライバーを突っ込んで叩き出す。
 この時も、全周にわたり少しずつあせらずに叩き出す。
 レースを打ち込む際には、はずしたレースをひっくり返して当て板として使うのは常識である。
 金槌でこれも全周にわたり平均して少しずつ打ち込んでいく。
 最後まで打ちこむと、叩いたときの音が「ゴッ」という音から甲高い「カンッ」という音に変わるのですぐにわかる。
 下側のレースは叩き込みにくいのでこんな工具を作ってみたが、結果からいうと金槌で打ちこんだほうが楽である。
 12mmのねじ棒と四角い板、ワッシャー、ナットで簡易万力様を構成している。
 これはホイールのベアリングの圧入にも使えるかもしれないので、その日が来るまで後生大事に取っておくことにする。
 さて、もう一つの難関、ステムベアリングの打ち込みである。
 サービスマニュアルによると「ベアリングの上に寸法の合うワッシャーを置いてベアリングインストーラーを使って打ちこむ」となっている。
 しかし、そんなでかいワッシャーは売っていないので、前記の簡易万力様に使った四角い板をガムテープで張り合わせてワッシャーの代わりにした。
 ベアリングインストーラーはステンレスのパイプで代用。

 パイプの内径が31〜35mmくらいなら使える。
 32mmのがあればワッシャーは必要ないだろう。
 ただし、私が買いにいった店では外形32mmと外形38mmのしかなかった。
 厚みが1mmなので、32mmのほうはステムに入らなかったし、38mmのはベアリングの内側から外れそうなのでワッシャーがどうしても必要であった。

 ちょうどいいサイズのパイプが手に入らない場合は、厚めの鉄板を当てて少しずつ叩きこむという手も使えるらしい。
 その際には、いかにしてステムを安定させるかを工夫する必要があるが。

 これも、叩くときにはパイプの外周を順番に叩いて平均して打ちこむようにする。
 打ち込み後のベアリングはこんな感じ。
 ちゃんと奥まで入っている。
 ステンレスのパイプの上側はちょっと変形してしまったが、作業がちゃんとできたのでよしとする。
 ベアリングにグリスを塗る。
 塗るというよりも、ローラーの隙間から可能な限り奥にまで擦り込む。
 古いレースをかぶせてグリグリやったり、指で必死に擦り込んだりして、最後におまけでちょっと盛ってみた。

 取り付ける際には、周囲にはみ出した余分なグリスを拭き取ってあげる。
 上側のベアリングを乗せ、下からステムを差し込み、ステムナットを締めこんでしまえばあとはフロント回りを組みあげるだけである。
 ステムナットは50N・m(5.1kgf・m)で締め込むことになってるいので、そこそこ強めに締め込むということである。
 この状態でステムを左右に何回かまわしてベアリングをなじませた後、1/4〜1/2回転ほど戻す。

 ハンドル回りを乗せてステムヘッドナットを借り止めし、フロントフォークを仮り組みする。
 この時はロワークランプボルトのみで仮止めする。
 アッパークランプボルトは、ステムナットの調整が終わってから締めるのである。

 ステムヘッドナットを締め込むと、ステムナットはガタの分だけ下に押し込まれ、ベアリングを圧迫し、ステアリングの動きを妨げる。
 したがって、ガタがなく、かつスムーズに動く状態になるようにステムナットを調整してはステムヘッドナットを締めこむという作業を繰り返すことになる。
 ステムナットを調整するたびにステムヘッドナットを緩めないといけないのが面倒であるが、この調整が終われば作業は終わったも同然である。
 あとはしばらく走ってなじんだ頃に、必要に応じて再調整を行なえばいい。
 本来初回点検というのは、こういうところをちゃんとチェックしてくれるべき物なんだけどね。
 これがはずしたレースの写真。
 左上のほうにローラーが当たっていたと思われる跡が見えるだろうか。
 指で触ってもほとんど段差を感じないが、跡がつくということはそれなりに磨耗していたものと思われる。
 無限にぐるぐる廻る場所と違い、ステアリングのベアリングはいつもほとんど同じ場所だけが当たっているため、偏磨耗をしやすい。
 はずしたベアリングの写真。
 洗ってみると、錆等はないし、傷も見当たらない。
 しかし、レースに当てて回してみると、多少ごろごろした感じがあるのでやはり偏磨耗しているのだろう。
 ちなみにベアリングの型番である。
 NTNの刻印があるので、ここからベアリングを買うつてがある人は、スズキのパーツセンターから買うよりも安く手に入ると思われる。
 ベアリング類は基本的にはメーカーの標準品である場合が多いらしい。

今回活躍された工具様

 通常の整備に使う工具様ではなく、今回のために特別に参加していただいた工具様達の紹介。

 まず、左上からモンキーレンチ様。
 32mmのナットを回せることが必要条件。意外と高くなかった。

 その下がひっかけスパナ様。
 一番最初に乗ったバイクを整備するために買ったヤマハ純正工具。
 ステムナットの直径が42mmくらいなので、それが回せるサイズ。
 自転車の整備にも活躍。

 その下がタガネ様。
 確か、大昔にハンドルストッパーを削るために買ったような気がする。
 一本持っていると時々便利。

 次は言わずと知れた金槌様。
 大工道具用の片面が平らでもう片面がやや丸くでっぱっているやつ。
 日本の心である。
 ちなみにこいつは八角形のやつなので、サイド面もいろいろと使えて便利。

 一番下は貫通ドライバー様。
 マイナスの長めのやつ。
 この手の作業をするのなら、ドライバーは貫通タイプに限る。
 先端を当てて金槌で叩きこんで喰い込ませ、ねじを回す。
 下手なショックドライバーよりも確実である。
 今回の作業でちょっと無茶やって先が欠けたが、それを覚悟で使っているので気にしない。
 作業内容に合わせて先を削りなおすからいいのである。
 ちゃんとしたマイナスドライバーは別に持っているので、このドライバー様はスペシャルツールの仲間入りというわけである。

 右側にあるのが12mmネジの棒とナット、ワッシャー、四角い板。
 四角い板は建築材料では標準的なパーツのようで、大量に売っていたし、値段も安かった。
 二枚重ねにしたにもかかわらずレースが奥にあたっているのに無理をして締めこんだらちょっと曲がってしまったが(笑)。
 今回の作業ではあまり能力を発揮できなかったが、この組み合わせで万力様を降臨させることができるのである。
 ホイールベアリングの圧入にも使えそうな気がする。

 そして、忘れてはいけない左側の写真。
 ステンレスパイプ様。
 外形38mm、内径36mmだが、できることなら内径32mmのものがベスト。
 そういうものが規格上存在するかどうかは不明だが。
 鉄パイプでも可。
 このくらいの長さがあると、工具の補助にも使える。
 実はDT125のフロントフォークのインナーチューブが2本、部屋に転がっているのだが、残念ながら今回の作業には使えない形状であった。

 これらの工具をそろえると5,000円ほどかかるが、ショップの工賃よりも安上がりだろうし、自分でメンテをするのであれば工具を買い揃えるのにこしたことはないので、こういう時に必要なものを少しずつそろえていくのである。

 この工具様たちのおかげで無事作業を終えることができたことに感謝しつつ、本ページの結びとさせていただく。
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