スポークの張り替え

 先日、オートバイのタイヤ交換をした際に、スポークが一本折れていたのを発見した。
 スポークというのは、一本が折れてくると次々と折れてくるものらしいので、早急に修理が必要。
 普通は素人はスポーク張りに手を出しちゃいけねえと言われているくらい難易度が高いのだが、大昔に自転車のスポーク張りを一回だけやったことがある者としては当然自分でやってみるのである。

 今時スポークホイールのバイクなんてのは、オフロード車かアメリカン、それに旧車と呼ばれるたぐいのものとシーラカンスの復刻版とかで、オートバイ全体に占める割合はかなり少ない。
 その分情報も少ないと思うので、その手のバイクに乗っている人の参考になればいいのだが。

 ちなみに、私はあくまで素人なので、このやり方が正しいとはいえない。
 自分でいろいろ試行錯誤し、この方法が良いと思ったものを書いているので、他にももっと良い方法があると思う。
 その辺を考慮し、自分で作業する際には各自いろいろ考えてやってほしい。
 当然ではあるが、ホイールはオートバイが安全に走行するために重要な部分であるため、可能な限り正確に組みつけ、素人作業であることを充分認識して作業完了後もスポークの張りが安定するのが確認できるまでは頻繁にチェックを行なうことを忘れないでほしい。


用意するもの

 今回の作業にあたり、当然のごとく用意するものがある。
 まずは純正部品のスポーク。
 これがなくては話しにならない。



 スズキの場合、スポークは1セット単位でしか売ってくれず、このようにホイール一つ分のスポークとニップルがセットになっている。
 よく見ると、スポークの入っている向きがばらばらで、揃っていないのがわかる。
 値段は1セットで3,000円台中盤。(2,001年秋時点)
 32本のセット(あやふや(笑))なので、一本あたり100円しない訳で、これじゃぁバラ売りをするとコストのほうがはるかに高くなってしまうわけだ。
 このくらいの値段ならセットで買ってもいいか。

 次にニップルを回すための専用工具であるニップルレンチ。



 見栄を張ってKTCのものを購入。
 4.1、4.5、5.1、5.8、6.1の5サイズのニップルに対応できるという優れ物(笑)である。
 同じ物でオートバイ用品メーカーから出ているものもあり、こちらは6サイズ対応という更に優れ物だったような気がしたが、今までの経験からすると工具メーカーのもののほうが微妙に使い勝手がいいのと、壊れにくいというのがあり、見栄を張ってみたのである。
 ま、ニップルを回すのにそんなに力をかける必要はないので、どこのやつでもいいような気はするが。

 ところが、である。
 わくわくしながら新品のニップルとあわせてみると、入らないではないか。


 私の乗っているDJEBEL250XCのニップルのサイズは、上の写真でわかるように6.2mmなのである。
 いきなり万力様の出番である。
 万力様のお力を借りてニップルレンチを固定し、愛用のマジカットヤスリで軽くヤスリがけをする。
 片側0.05mmずつなので、削る量はほんのわずか。
 削りすぎに注意をしないといけない。
 これでジャストフィットのニップルレンチのできあがりである。
 お気に入りの道具に入れてあげてもいいくらいである。

 その他、通常の工具以外に必要なものは、φ1mmくらいの針金とかピアノ線とかそういうたぐいのもの、寸法を測るための定規とかノギスとかいうやつ、その程度である。
 つまり、分解組み立て自体の難易度はかなり低いのだが、調整の難易度が高いということのようである。

タイヤをはずす

 せっかくホイール1セット分のスポークを買ったのだから、折れたのだけ交換するのはもったいない。
 折れていないスポークもそれなりに疲労しているはずなので、1セット丸々交換することにした。

 そのために、まず車体からホイールをはずす。
 スポークの長さがリムの内周ぎりぎりのため、スポークをニップルの位置に持っていくと、ニップルはリムの中に入りこんでしまって回すことができないため、一本だけ交換するにしてもタイヤをはずす必要があるような気がする。

 次に、リムからタイヤをはずす。
 この辺りの作業はタイヤ交換を参考にしてほしい。
 今回はずしたタイヤは、ほんの最近組み付けたばかりのタイヤだったのでまだヘタっておらず、はずすのに意外と苦労した。
 いつもはヘタりきってトレッド面が薄くなったのばかりだからなぁ。

 リムからタイヤをはずしたら、リムバンド(通称ふんどし)をはずすのだが、これをはずしてびっくり。
 下の写真を見てほしい。
 リムバンドに隠れたニップル周辺が、まるでコンクリートを流しこんだようになっている。



 隣の写真がニップルをはずしたところ。
 回りに変な塊がこびりついている。
 次のがそれを落としたところ。
 マイナスドライバーの先などで地道に削り落とし、ブラシで削りカスを払うという作業を繰り返すのだが、結果からいうと今回の作業の中でこの作業が最も手間がかかるものであった。

スポークをはずす



 スポークをはずす前に、タイヤのセンターを出すときのためにブレーキディスクからリムまでの距離を測ってみた。
 けど、こんなことをするのならタイヤをはずす前にスイングアームからの隙間を測っておいたほうがはるかにいいのであるが、実は測り忘れていたための苦肉の策である。
 結果から言ってしまうと、私のバイクはスイングアームの左右両方から定規を当てて寸法を測ることができる構造なので、この手の作業は全く必要が無いのであった。

 片持ちスイングアームとか、余計なものがくっついていて片方からしか寸法を測ることができないようなバイクは、必ずタイヤをはずす前に寸法を取っておくべきである。
 その際にはリムのゆがんでない部分を測ることと、スイングアームのどの部分とリムのどの部分をはかったのかが、組み付けたときにわかるように目印をつけておくのを忘れないように。
 もちろんチェーンアジャスターの位置も覚えておこう。

 それと、スポークを二本一組にして手で握ってみて、張り具合を覚えておく。
 私のDJEBELは出荷時の張りが強すぎるような気がするのであまり信用できないが。

 さて、いよいよスポークをはずすのだが、ニップルを緩めるときに一ヶ所を一気に緩めるとリムがゆがむような気がするので、全体に少しずつ緩めていく。
 ニップルの回転数にして1/4〜1/2回転くらいだろうか。
 このようにして、全体がゆるゆるになる程度まで緩める。

 この時、何本かのスポークがニップルが回らないくらい固着していた。
 ニップルを回すとスポークも一緒に回るのである。
 つまり、スポークを張ろうとしてニップルを回したときに、スポークも一緒に回るのだが、ハブのところでは回らないために、スポークがねじれることで一見スポークを張ったのと同じ状態になり、その応力がハブの部分のスポークの首のところに集中し、スポークが折れたものと思われる。
 いくつかは潤滑剤を浸透させることで回るようになったが、固着の激しいもの(変な塊のこびりつきが激しいもの)はそれでも歯がたたなかった。

 ニップルを緩めることができなかったスポークに関しては、スポークをロッキングプライヤーで噛んで無理やりニップルを回してスポークを折ってはずした。
 これではずしたスポークが5本。
 つまり、この5本が次に折れる候補だったのかもしれない。
 1セット交換は正解ということか。

 スポークというのはかなり硬い材質でできているようで、ワイヤーカット用のミゼットカッターという工具で切ろうとしたら、歯が折れてしまった。
 ロッキングプライヤーの根元のカッター部分で切ろうとしたら、こちらのほうが負けそうになった。
 もし、日常のスポーク点検のときに固着したスポークを発見した場合は、無理に回そうとせず時間をかけて潤滑剤を浸透させ、なんとか回るようにしたほうがよい。

スポークを組み付ける

 今回は作業が面倒になるのを避けるため、スポークをすべてはずさずに一組(二本)ずつ入れ替えていく方法を取った。
 これならスポークの組み方を忘れてあせる心配はない。
 けど、写真を撮っておけば別に困るようなものでないので、全部ばらしてリムやハブをきれいに掃除するというのもいいだろう。
 ハブの掃除なんてのは、こんなときでもないとなかなかできないのだし。
 レストアマニアやバイク磨きを趣味にしている人は絶対にやるべきである。
 私は汚れを気にしない人なので楽な方を取ったが(笑)。

 そんなわけで、まずスポークを一組(クロスしている二本)をはずす。
 新品のスポークを一本取り出し、取り付けてみる。
 ん?、入らないではないか。
 なんか、スポークが長くてリムにあたってしまう。
 おかしいと思い、何本か試してみると、入るものと入らないものがあることに気づいた。



 実は、このようにスポークの長さは2種類あったのである。
 袋の中でスポークの向きがばらばらだったのは、長さで入れる向きを分けてあったのである。


 ハブの部分をよく見ると、スポークの頭の位置がたがいちがいになっているのがわかる。
 これより、外周に近いほうが短いもの、中心に近いほうのが長いものを使えばよいということがわかる。
 わかってしまえば簡単である。

 一本を組み付け、もう一本を組み付けようとすると、入らない。
 どうやってもリムや他のスポークに当たってしまい、目的のニップルの穴まで持っていくことができないのである。
 まさに知恵の輪状態。
 スポークはわっかじゃないけど。
 で、組んであるスポークをよく見ると、クロスしている部分には当然外側を通っているスポークと内側を通っているスポークが存在するわけである。
 で、ハブにスポークを通すときは外側から内側に向かってスポークを差し込み、内側から起こすようにしてニップルの穴に持って行くである。
 つまり、クロスしている部分で内側となるべきスポークを先に組んでしまうと、そのスポークに当たってしまい、絶対に外側に出すことができないのである。
 組む順序としては、クロス部分で外側になるスポークを先に通しておくこと。
 これは鉄則であろう。


 これが一組だけ組み付けた状態。
 さすが、新しいスポークはきれいである。
 というか、古いスポークが汚すぎたというべきなのだが。
 ハブの穴からスポークを抜くときに、スポークの表面にこびりついた汚れがぼろぼろと落ちたもんなぁ(笑)。

 スポークを組み付ける際、ニップルの回す量はゆるゆるの状態でかまわない。
 とりあえず抜け落ちない程度に、数回転回しこんでおくだけとする。
 そして、すべてのスポークのねじ山の見えている部分が同じ長さになるようにしておく。
 この調子で全部のスポークを交換する。

 この時点ではまだハブがぐらぐらと動くので、ニップルを少しずつ締めこんでいく。
 締めこむときは1〜2回転くらいずつ指で回していく。
 とにかく全体を少しずつ均等に締めていくのである。
 先程も書いたように、この時点ではねじ山の見えている量を均一にするのがポイントである。


 この調子で締めこんでいくと、そのうちにいくつかのニップルが指では回らないくらいになる。
 スポークの長さとかハブの穴位置、微妙な誤差などの関係で、からなずしもすべてのねじ山の見え方が同じになるわけではないが、一つ置きに同じくらいになってきていると思う。
 もちろんブレーキディスク側とスプロケット側のスポークでも締め込み具合は異なる。
 しかし、片側のスポークは一本置きくらいにほぼ似たような傾向になっているはず。
 つまり、右と左、それと一本置きということで4つのグループに分けられることとなる。
 そのうちの一つのグループが先に締まってくるので、この調子で指でニップルを回していき、そのグループが均等に締まるようにする。。
 きつく締めこむ必要はない。
 つぎに、他のスポークも指でニップルを回して同じくらいの締め具合になるようにする。
 この時も、一ヶ所を一気にやろうとせず、1/4回転ずつ全体に締めこむようにする。
 ここであせるとぶれが大きくなるので、あくまで少しずつ地道に行なうこと。
 このようにして、すべてのニップルを指で回らない程度にまで締めこむ。

 この状態でホイールを持つと、まだハブがぐらぐらと動く。
 ここで初めてニップルレンチを使うのである。
 全体に1/4回転ずつ締めこんでいく。
 バルブ穴の位置から始めるようにしないと、どこで一周したのかわからなくなるので注意が必要。
 ニップルを回すのに熱中していると、バルブ穴を見落としてしまうこともあるので、マジックで印をつけるのもいいだろう。
 2〜3周すると全体に張りが出てきていかにもホイールらしくなってくる。
 スポークを工具で叩いてみて、いかにも緩んでいる「ボゴッ」という音がなくなり、「ビヨ〜〜ン」というゆるく張った弦のような音になれば仮組みは終了。

 やっぱり新品のスポークは美しいなぁ。

芯出し

 本来であれば、仮組みをしたホイールを専用工具に取りつけて調整を行なうのだが、素人はそんなものは持っていないので車体を専用工具代わりに使う。

 なんか間抜けな感じ

 このときに、チェーンアジャスターは左右とも同じ位置になるようにすることを忘れてはいけない。

 私の場合、
  1. ホイールの中心を合わせる(偏心を取る)
  2. 左右のぶれを取る
  3. 左右の中心を合わせる
 の順で行なった。

 なんとなく、この順番のほうが効率がよさそうに思えたから。
 また、この手の作業は一発で決まることはまずないので、ある程度合わせこんだら次の段階に進み、3つの段階をすべて終わったらまた最初に戻ってやや精度を上げた調整を行なう。
 この手順を3〜5回くらい繰り返すと全体にきれいに調整が決まる。
 とにかく、一気にやろうとせず、少しずつ何回にも分けて、あせらずじっくり地道に行なうのが結果的に近道である。
 なにしろ素人作業なのだから。


 まずホイールの中心を合わせる。



 左の写真のように、スイングアームに定規を当ててホイールを回すと、リムの一番飛び出ているところが定規を押しだす。
 右の写真のように、リムの内側に針金を当ててホイールを回すと、リムの一番引っ込んだところが針金にあたる。
 針金はガムテープでスイングアームに貼りつけ、指の支え具合で位置を微調整する。
 どちらでも好きな方法でかまわないが、最初の大きなふれを取るときは左の方法で、ある程度ふれが小さくなってきたら右側の方法でやるのがよいような気がする。
 針金は、できる限りリムの内側の平らな部分に直角に近くなるように当てる。
 左右のぶれの影響を極力減らすためである。

 スポークを組む際に、一ヶ所を先に締めこんでいたりするとリム全体がおむすび状や星型になり、複数箇所がでっぱる事になるが、今回のように少しずつ全体に均一に締めこんでいくと、リム自体が変形していない限りごく単純な偏心となり、でっぱる箇所は一ヶ所、引っ込む箇所はその反対側となるはずである。

 この調整では、でっぱっている箇所のスポークを張り、引っ込んでいる箇所のスポークを緩めるようにする。
 張るときにはホイールの中心(ハブ)側から外(リム)側を見て、ニップルを反時計回りに回す。
 緩めるのは逆回転。

 調整する際に、もっともでっぱっている箇所のスポークを1/4回転締め込み、その両隣のスポークを1/6回転締め込み、更にその外側のスポークを1/8回転締めこみ、更にその外側のスポークをほんの少し締めこむというように、一ヶ所だけでなく周辺(±45度くらい?)も少しずつ調整する。
 同様に、反対側のスポークも同じくらい緩める。
 ここでもかんじんなのは、一気にやろうとせず、1/4回転程度で何回にも分けて調整することである。
 ある程度調整が進んでくると、一周のうちに何ヶ所かでっぱっているところが出てくる。
 もちろんこのでっぱる量はごくわずかになっているはず。
 こうなると、偏心というよりはスポーク一本一本の張り具合によるリムのゆがみというレベルになってくるので、調整するのは最もでっぱっている(or引っ込んでいる)部分の前後4本程度となり、更に調整が進むとゆがみの中心の1〜2本の調整となる。
 また、ニップルを回す量も1/4では大きいくらいとなるので、本当に微調整となる。

 最初からここまで合わせこんでも、次の左右のぶれの調整でずれてしまうので、おおまかな偏心がなくなったところで次の調整に切り替える。


 左右のぶれを取る。

 写真のように針金をリムの横から当て、その隙間を見ることで左右のぶれを見る。
 針金との隙間が最も大きいところは針金のあるほう(この場合はディスクブレーキ側)のスポークを張り、反対側(スプロケットのあるほう)のスポークを同じ量だけ緩める。
 調整をする前に、どこからぶれはじめてどこが最高になっているかを確認し、その範囲を調整する。
 もちろん、最もぶれが大きいところを1/4回転、隣はそれより少し小さく、というようにぶれている範囲よりわずかに狭い範囲を調整する。
 右のスポークと左のスポークは片方を張ったら片方を緩めるというように同じ量だけバランスをとって作業をする。

 この調整も、中心合わせと同様に調整が進むにつれて全体の大きなぶれが取れると細かいぶれが残るようになる。
 やはり調整のためのニップルの回転量は少なくなり、調整するスポークの本数もぶれている場所の周辺数本のみとなってくる。
 が、やはりここで必死に合わせこんでも次の調整でまたずれがでるので、ここまで来たら次の調整に入る。


 左右の中心を合わせる。
 まず、リムからの距離を測るための基準点を決めておく。
 測るたびに値が変わったのでは何を測っているのかわからなくなる。

 ホイールを真横から見て、リムの内側と一致する部分に印をつける。
 写真の右側、スイングアームの下の方に印がついているのが見えるだろうか。
 アクスルシャフトの中心からここまでの距離を測っておき、反対側のスイングアームの同じ場所にも印をつけておく。

 ジェベルの場合、反対側のスイングアームの上側にチェーンカバーを固定するためのでっぱりがついていてスイングアームの上側が使えないため、下側で測ることにした。

 絶対値を測るのではなく、左右の寸法の差を測るのが目的なので、左右のスイングアームの同じ場所に印をつけておくというのが重要なのである。

 目印をつけたら下の写真のように定規を当て、寸法を測る。
 実際には定規ではなく、ノギスを使ったが。
 反対側も同じようにして寸法を測る。

 左右の寸法の差が何ミリあるかは引き算すればすぐにわかる。
 ここで、ホイールが左に寄っているようなら右のスポークを張り、左のスポークを緩める。
 ニップルの回す量は、例によって1/4回転。
 一通り調整したらもう一度寸法を測る。
 差は縮まっただろうか?。
 1/4回転で何ミリ動いたかがわかれば、次のニップルを回す量はだいたい予想がつく。
 もしこれで6mm動いたとして、あと2mm動かしたい場合は1/4の更に1/3である1/12回転回せばいいことになる。
 いわゆるほんのちょっとというところ(笑)。


 一連の調整の過程で異常にゆるいニップルがあって、それを緩める方向に調整する必要があった場合はそれ以上ニップルを緩めないようにする。
 逆に、手応えがあるくらいまで締めこんでおいたほうがよい。

 ここまで来たら、スポークを握って全体の張り具合を見てみる。
 多分やや緩めだろうから、全体を1/4回転ずつ張っていき、再び張り具合を見る。


 これで一通りの調整は終わったことになるが、今の段階では粗調整なので、もう一度最初に戻って調整を行なう。
 ここからは微調整となるので、調整範囲は細かく、ニップルの回転もより少なくなってくる。
 この作業を何回か繰り返すことで、だんだんリムのぶれが取れてくる。
 2回目以降になると調整の要領もわかってくるので、つい一気に調整しがちになるが、既にこの時点では微調整の領域になって来るので、少しずつ調整するのが肝要。
 ニップルを回してからリムが動くまで、多少時間がかかるというのもあるので、一ヶ所調整したらそこを重点的にやるのではなく、全体にまんべんなく平均的に調整していくのがよいようだ。
 数多くのスポークを率いる大将たるもの、局所的に物を見るのではなく、全体の戦局を把握するのが大事ということだ。

 そうそう、どうせ素人なのだから、完璧な調整を目指す必要はない。
 レースでタイムを争うのならより完璧を目指すべきだが、私なんかのレベルでは2mmくらいぶれが出ていても全く気付かない。
 強いて言うならば、偏心だけは可能な限り合わせこんでおいたほうが、高速走行の際の振動が少なくてすむ。
 逆に、偏心が激しいと、高速走行時にスポークが折れることがあるらしい。
 高速走行をしないのならそれほど気にすることはないが。

 個人的な重要度としては、偏心、左右のぶれ、左右の中心の順だと考えている。
 左右の中心なんか、ちょっとくらいずれていたって問題なく走る。
 コーナリングが左右で微妙に違うかもしれないが、それに気付くような繊細な人は調整もまめにできる人だろう。
 世の中には、見た目ではっきりと左右に踊っているようなタイヤでも全然気にせずに走っている人が大勢いるのだから(笑)。

調整完了


 あとは車体からリムをはずしてタイヤを組み付け、ホイールを車体に取り付けるだけである。
 リムとスポークがきれいになり、バネ下重量も軽くなったような気になる。
 これならハブも掃除してやったほうがよかったと後悔するくらいである。
 タイヤを回してみると、思った以上にちゃんと組みあがっているのがわかると思う。
 リムのぶれよりもタイヤの模様のぶれのほうが気になるくらいである。

 スポークを一本一本レンチで叩いていき、「ボゴッ」と言う緩んだ音や「キンッ」と言う張り過ぎた音がなければOKである。
 すべてのスポークが同じ音になるわけではないので、その辺は気にしなくていい。

 調整後、スポークの張りが落ちつくまではしばらくかかると思われるので、しばらくは毎週のように張りの確認とぶれの確認を行なったほうがいいと思える。
 組んだばかりの機械というのは、かならず当たりがつくまでは初期変動がある物なので、それを考慮して過激な走りは控え、慣らし運転に徹したほうがよいだろう。
 しばらくするうちに調整の必要がない程度に安定してくるので、そうしたら慣らしは終わりと考えていい。
 毎日走り回るようであれば慣らしも早く終わるだろう。
 あとは月に一回程度の通常のメンテで問題ない。


 スポークの張り替えというのは、非常に高度な作業と思われがちだが、実際にやってみるとそれほど難しいものではない。
 むしろ、意外と簡単なのである。
 横着をして一気に調整をしようとすると収集がつかなくなるが、あせらず少しずつ時間をかけて調整していれば、素人レベルでは充分な範囲に収束してくれる。
 素人はスポーク調整に手を出すなと言う人もいるが、せめて点検くらいはした方がいいだろう。
 調整はプロに任せてもいいのだし。


 いずれにせよ、自分で手を加えた部分というのはどのような状況にあるのかがよくわかっているので、安心感はある。
 信頼性は今一歩だが(笑)。
 こうやってメンテをして行くことで、より自分のバイクという愛着も沸いてくるものである。
 というか、このバイクに関しては出荷時のメーカーの調整がどうも信用ならない(笑)ような気がするのである。
 もちろんチューブタイヤのパンク修理も満足にできない整備工のいるショップに自分のバイクを預けるのは不安なので、できる限りは自分でやっておきたいというのもある。
 それにより、バイクに対する理解も深まってくのではないだろうか。

 少なくとも、リッターバイクに乗っているくせにタイヤがつるつるでチェーンがキャラキャラと光っているようなやつに比べれば、よりバイクを信頼して攻められるというものである。
 まぁ、無理に攻める必要はないが(笑)。


 最後に一言。
 スポークの張り替えを自分でやったということは、一般的には、火力調整の苦手な旧式のガソリンストーブでうまく米を炊けるとか、宇宙からの電波を聞くことができるとか、そういうのと同じくらい別格の存在として見てもらえるのである。
 この作業はお奨めである。

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